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Vol.10-03 春のときめき/ 中国全人大と景気回復
春のときめき
三寒四温がくり返しておりますが、厳しかった寒い冬も去って、陽気も日を追って暖かく、次第に春めいてきました。
松尾芭蕉は奥の細道の冒頭の 「序」で、 「海浜にさすらへ去年の秋、…・やや年も暮れ、春立つかすみの空に白河の関を越えんと・・・・」と、春光るあたりの様子に心うき立つ思いを述べております。今日,三月三日は、雛まつりです。旅に先立ち芭蕉は、古く住み慣れた草庵を人に譲り、あとに 「草の戸も住み替わる代ぞ雛の家」 の一句を残して旅に出て行きます。 一句には、雛祭りの賑やかな様子がうかがえてきます。
「弥生も末の七日、あけぼのの空ろうろうとして… 」と、芭蕉の旅立ちほどではありませんが、その思いに誘われるかのように、日頃、ご無沙汰をしている人に、それとなく便りを送ってみたい気持ちにもなってくるのが人情かも知れません。
総務省が、3月2日に発表した1月の完全失業率が1年10ヶ月ぶりに5パーセントを下回ったと云う、春先の明るい「便り」、ニュースであります。この先、景気が回復軌道にのって改善し、初夏につながる青やぎの芽吹きになってほしいものと期待しています。同時に発表された有効求人倍率も、0.46倍と僅かながらの改善を見せました。景気が持ち直してきた兆候を見て、この先の雇用状勢の悪化に歯止めがかかれば喜ばしき限りです。
但し、消費動向は依然としてデフレ状況から脱却した気配はなく、企業の設備投資の動向にも未だに改善がみられないので、この先、予断は許せません。
これを反映して労働市場では依然として新規採用は低迷しており、本格的な回復を見るまでには、尚、慎重な見方が大勢を示しています。ただ国会の22年度予算の衆院通過もあって、早い時期に予算の施行がなされて、現実に効を発揮してゆけば、新しい追い風となって、マーケット全体に明るさが出てくるものと思われます。
私ども企業経営家も、こうした春の光を実感して、企業業蹟の回復へ照らし当てて、労働市場からの新規採用を促し、家計の改善へ尽力し、以って強力な景気回復への足がかりを構築すべきと、その責務を痛感しているところです。僅かではありますが、完全失業率の継続的な減少は、雇用情勢の改善と相俟って、景気回復への兆候と、自信と、足がかりになるのではないかと期待をこめております。
加えて、アメリカの失業率の減少と、雇用統計の僅かながらでも改善の兆しがみられれば、ニューヨーク証券市場は之を敏感に反映して、株価上昇に転じ、之が世界に波及していくサイクルになって行くことでしょう。これは同様に又、自信喪失気味の日本経済にも総体的に良好な結果をもたらすことにもなるでしょう。何としても日本経済が暗いデフレ的様相の状況から脱却して、早く元気を取り戻してもらいたいと願うこと切なる思いでおります。 3月3日。
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中国、全人大の開催
3月4日、注目された中国の全人大で、財務省が発表した2010年度予算案では、引き続き景気刺激策をとる内容のものとなりました。世界経済が、その動向に一喜一憂する中、ひとまず大きなブレがなく安堵の息がもれています。
財政支出が、前年度比8パーセント増の8兆4500億で、日本円で約110兆円になります。これは、過去最大を更新する大規模なものです。温家宝の施政方針演説でも 「積極財政」 と「適度に緩和な金融措置をとる」 と表明しました。
当会事務局に訪れる会員諸氏の意見では、かねてから中国は今、バブル経済として将来を危惧する意見が多く述べられますし、いっぱんでもそうした意見が大勢をしめていることも事実ですが、私はいつも中国の奥の深さを指摘して、「そうした兆候があるとすれば、沿海州の経済圏に限定されており、それを吸収する広大な内陸部の市場が、これをあたかも海綿の如く吸い上げていってしまうキャパシティーを持っている」 と云ってきております。リスクをかけた発言かも知れません。
今までの昭和経済誌でも、そうしたことを度々論述してきたところです。丁度27年前の 1984年四月に 昭和経済会は43名からの、「中国経済使節団 」 を編成して、中国の北京を訪問しました。中国国際貿易促進委員会の大会堂で、王耀庭. 副主席並びに政府当局、要人らと会談、経済交流に関して大きな成果を収めて参りました。又、当会顧問の参議院議長、安井謙氏の親書を携えていきました。団長を私が勤めましたが、その時、つぶさに見てきた中国社会と民衆から受けた実感が鮮明であり、印象と理解が今に及んで、感慨無量の心境にあるからかも知れません。
その時の中国の人口は9兆7000億でした。生活水準の実態は今と比べものにならない低さで、国民所得も最低であったと記憶しています。いつも云うことですが、巨大な規模の中国国土と、人口と、資源は、そのまま消費と生産力に結びつく可能性が大であり、ひとたび動き出すと、厖大なエネルギーをもって漸進的に穏健に、大海のうねりの如く、バランスを以って動き出すことでしょう。中国の民族性、思想性、習慣性などによるところかもしれません。
最近の内外の経済情勢は、実物経済の動静、変化によって動いていくと云うよりは、むしろ金融関係によって、撹乱される比重が以前より増してきていることは重要視されなければなりません。国際間を移動する投機的マネーの動きが最も注目されるところです。投機的マネーの奔流はひとたび動き出すと、膨大なエネルギーとなって利ざや、格差を求めて止むことがありません。当局は、この経済秩序を乱したり、破壊を試み、利益追求に走ることを警戒し、投機マネーがもたらす影響を最小限度に食い止めようと、監視や、幾多の規制を検討しております。中国も決して,その投機マーケット、その対象の例外ではありません。将来の注意が必要であります。中国政府、並びに当局が、こうした動きに対して独自の対応を以て慎重且つ懸命に臨んでいる気が致しますが、今までの手法を以てしては、こうした動きを御しがたきことを、過去の教訓かいみじくく受け止めている結果とも思われます。悠然として、しかし外圧に屈せず、しかも謙虚にアメリカや、日本を他山の石として政策遂行に当っている感じが致します。
世界経済の先行きに不安が残るなか、願わくば、広大な内陸部へのインフラを含めた国民経済の改革改善は、秩序を以ってゆったりと、その規模と速度は、私たちの想像をこえてさまざまな感動を覚えるものであります。中国経済の発展については、茫洋として、しかし悠然として、月光の砂漠の中を行く駱駝の商隊の静寂な遠影を想起しがちでありますが、之は私の思い過ごしでしょうか、過去三十年近くなる昔、中国の状況を生々しく且つ直感的に観察してきた私は、今以て、中国経済の洋々たる将来についてそのように感じ、そう期待して止まぬところであります。
(3月5日)
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中国企業による日本企業・事業の買収
中国の国内経済の発展の度合いは、凄まじいものがあります。一昨年、中国経済の国威にかけた北京オリンピックを成功裡に終らしたあとも持続的発展を続け、今回は、あと1ヶ月後に上海万博をひかえ、破竹の勢いであり、その勢いは止まるどころか、益々規模を拡大し、沿岸部から広大な内陸部へ、都市から農村部に壮大な波となって波及しています。
他方、それに呼応して中国経済と産業は国内に留まらず世界各地に及び、要所々々に拠点を設け、再なる飛躍に備えています。資源獲得競争は熾烈を極め、世界の主要生産国にはほとんど手を付けて拡大につとめています。その鉾先は、日本にも及んでいます。
先日、中国の大手自動車メーカーの比亜迪(BYD)が、日本の金型大手オギハラの工場を買収すると発表しました。オギハラは、ボンネットなど車体を構成する鋼板の金型などを生産しています。金型の技術では知名度が高く、今までも国内外で大手メーカーに自動車用品の製品を供給してきました。しかし日本国内の景気低迷と、商域低迷で業蹟は低下していました。
今、中国の製造業は、先進国の企業や事業部門を積極的に買収してきています。二月には部品メーカーの寧波韻昇が、旧いすず自動車の日興電機工業を買収しています。今回、中国のBYDも又品質向上と競争力を得たいとするもので、オギハラのデザイン性や剛性を活用して、日本や欧米勢との差を縮め、品質の向上と競争力の強化を目ざし車体の改良、改善を目ざして市場に大きく参入するねらいがあります。設備過剰を解消したいとするオギハラと、BYDの積極的な事業拡大の意向が、はからずもタイミング良く一致したものでしょう。
これからも中国が強力に蓄積しつつある資本力に物を云わせ、製造業による海外企業や、事業の買収が加速してゆくものと見られます。双方の利害一致によって日中の連携が深まって、敵対・競争関係から、友好・協力関係に進み、東アジア経済の発展に強力な協力関係が構築されることが望まれます。
(3月27日)
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森 郁二氏の白寿を祝う
去る3月25日、午后6時から当会の春の講演親睦会が八重洲富士屋ホテルで和やかに開かれました。三寒四温が峠を越して観桜の宴かと思われましたが、寒冷前線の南下で肌寒く雨模様で、花見の夕べは文字通り無情の趣となりました。
講演会には、出席希望者全員が元気に参集しました。講師は東京大学教授、林良造氏であります。元・経済産業省、経済産業政策局長をつとめ、卓越した行政手腕を発揮、多難な時局に臨み多大の業蹟を残されました。
当日の演題は 「 民主党政権と日本の課題 」として、約1時間半に亘り熱弁をふるわれ、参加者に多くの教訓と示唆をあたえ、その後の質疑応答も活発を極め有意義に、且つ会食の宴も楽しく過ごすことができました。
席上、白寿 (九十九歳 )を迎えられた近三商事株式会社、会長の森郁二氏の誕生日を祝うこともでき、光栄な席とすることができましたことは、この上ない喜びであります。
毎回の会合には欠かさずご出席して下さり、話をきかれたあとは各位と会食、懇談を楽しまれていかれます。謙虚にして貴重なお話を賜ることは、以て敬服することであります。かくしゃくとして職場に臨む森会長の白寿の威厳は、穏健、重厚にして信厚く、常日頃尊敬の念を以って交わりをさせて頂いております。私には、会長の変わらぬ姿が、あたかも不動の不二の冨獄を仰ぐ思いであります。
白寿の誕生日、おめでとうございます。 (3月25日)
平成22年3月3日
社団法人 昭和経済会
理事長