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社団法人昭和経済会

理事長室より
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理事長室より

Vol.12-06 原発ゼロと再稼動のたくらみ

原発ゼロと再稼動の誘導策   
  
   東北大震災と原発事故は狭い日本列島に甚大な被害、損害をもたらしました。わけても恐怖の水素爆発と原子炉の燃料棒のメルトダウンは、広範囲な放射能拡散と汚染の洗礼を受けました。その被害は天文学的数字です。しかも将来に長く影響を及ぼしてゆき、日本国は今、民族存立の危機に立たされてます。これは決して過言ではありません。
   恐怖に脅えて日本には今、原発ゼロのままの状態が奇しくも続けられています。同時に夏季の需要期に向けて、電力不足を補う手立えてを講じています。原発事故の悲惨を体験して、原発廃止に向けた機運が遅まき乍ら国民の間に動き出しました。そして節電機運も高まりました。そして脱原発社会ののろしが全国的にあがるかに見えました。しかし喉元すぎれば熱さ忘れるの諺どおり、原発再稼動を画策する動きが出てきまた。政府と電力業界がストレステストを終えて安全を確認したとして、福井県の大飯原発再稼働を目指して画策し、水面下でその準備を着々として進めてきております。原発事故は必ず放射能汚染を地上に、海中に、大気中に拡散させて長期に蓄積、滞留し、死に至る恐怖の被害を子々孫々に残す癒し難いモルヒネであることを承知の上だから始末に負えません。政府は暫定的措置と断っていますが、暫定措置が暫定にとどまらず、それが規制措置として、うやむやに動かされていくのが目に見えています。既に再稼働の後続部隊が虎視眈々として出番をうかがっています。北海道の泊、鹿児島県の川内、石川県の志賀、愛媛県の伊方など各原発基地が再稼働候補に乗ってきております。 経済性を重視し、 安易な電力供給の道を選ぶことは衆目の一致するところですが、いざという時のその代償はあまりにも膨大であり、致命的であります。穏健にして繁栄の道をを歩むか、劇薬を含みながら危機を抱え込んだ道を突き進むか、損失と経済的メリットを天秤にかけたとすれば、最早、議論の対象にもならないことがらであります。
一方、原発事故以来、再生可能なエネルギーの生産に向けた幾多の方策が各方面で打ち出されてきております。その努力は、既に民間のなかに澎湃として台頭にきています。地産、地消といった経済的活動の価値感のもと、大きなうねりとして抬頭してきました。機運は地域経済の活性につながって、新しい経済システムと地域社会の構築に大きく貢献しつつあります。個の機運を広く現実のものとしていくためにも、電力会社の発送電分離の政策を迅速に進めなければなりません。先に経産省の優秀な諸君のもとで、この構想が強力な布陣を以て推進されていくことが発表されましたが、日本の経済産業構造を根本的に改革していく先鞭となる使命を持ったものであります。国民が一丸となってこの政策を国民経済の目線に会ったものとして強力に支持していかなければなりません。政府も産業界も、この芽を摘んで絶やすようなことを行ってはいけません。
今や覚醒の時、安易な方策を選んで、将来に禍根を残す愚策は、厳としていましめるべきであります。


ヨーロッパの金融危機

  あと講釈を述べるつもはありませんが、今年に入ってEU金融危機の引き金になったギリシャ問題について、私はギリシャのEUからの離脱はないと思ってました。選挙活動で大風呂敷を広げて大言壮語をしても、所詮は借金ずくめの貧乏所帯のたわごとであります。火事の元となった自国の借金問題で、他国に助けを求めながら、それらの善意好意を無視して自力回復ができるわけがありません。財政危機と放漫財政、経済の疲弊、政治的混乱と問題山積の国であります。放漫財政の是正と、自制を求めるEUの要請は、正直のところ正鵠を得たものです。
  更生をはかる身でありながら贅沢を尽くし、尚放蕩三昧の生活を続けることはできません。昨日行われたギリシャの再選挙では、緊縮財政賛成派が反対派をおさえて勝利し、ひとまずEUの信用危機は峠をこしました。まかりまちがって反対派が勝利し、EU離脱ともなればEU圏のみならず、世界経済に及ぼす影響は計り知れません。ギリシャだけにとどまらず、EU 圏そしてアメリカ、日本へと波及し、さらには中国を始め新興国にも飛び火して深刻な状態を惹起することでしょう。これは以前から予想されてきた事柄です。
 片や万が一の時であっても、EUからならず者を追放して肩の荷がおりたことで、一時的ショックはあるもののEUの信用不安の火種をたやしたことで、正常化と信用回復の道すじを描いたことになるかもしれません。私は両面から、ギリシャ問題は巷間、聞き及ぶようなことはないと思っていました。いづれにしても選挙の問題が良識的に結着を得たことは朗報的でした。
  今日は、梅雨の間に見た夏の明るい日盛りです。しかし南方海上には大型台風4号が本土上陸をうかがって北上を続けています。今日から沖縄全島は強い暴風圏に入っています。天候、気象の変化と同じように、雨と風を伴った大小の嵐が地球上を襲ってくることでしょう。これから先幾度となくEUと同じような財政金融問題をはらんで、世界の経済を揺さぶる事件が起きてくることでしょう。金融資本主義のジレンマですが、これをその都度克服して行く着くところまで闇雲に行くしかありません。これがグローバル経済の宿命でもあります。
  EUの金融危機の問題は、各国とも国家財政の行く方にかかっている問題だけに、これから先紆余曲折を経て、やがては収斂されていくことでしょう。その間の賢明な処方策が打たれていかなければなりません。 6月18日


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新生エジプトの歓喜

  エジプト大統領の選挙でムスリム同胞団が擁立したムハンマド・ムスリム氏が決選投票でその座を射止めました。軍政体制に反対してきた市民は、軍事政権の樹立に反対して連日猛烈なデモを繰り返してきましたが、今回の選挙でその念願が叶いました。エジプト初の文民政府の樹立に成功し、街は歓喜に包まれています。ムスリム氏はイスラム系の出身ですが、思想的には穏健姿勢を貫き、欧米諸国とも機を見るに敏に対応して、対立構造の上でなく、妥協の道を模索していく現実派でもあります。
  こうした中、軍部は従来の権益を維持、持続を図って何かと画策を演じてきておりますが、そうした対応を巡って今後も文民政府と軍部の対立は続くと思われています。今後においても文民政府と軍部との緊張する場面も出てくると思いますが、中東の盟主を名乗るエジプトが、時代の潮流を見誤ることなく開かれた民主政治が古代文明の発祥の地、エジプトに高々と打ち立てられていき、中東の地域に確たるいしずえを築いて、長きにわたり平和と秩序の確立に貢献していってもらいたいと念願しています。
  エジプトに文民政治が確立されたことは、中東諸国に広がるアラブの春の意義高揚につながるものであります。独裁政権下で抑圧に耐えてきたイスラム勢力の政治進出を促しました。革命化の次の目標は、イスラムと民主主義は両立するものかといった壮大な実験でもあります。画期的な意義は、エジプトで文民の穏健派のイスラム主義者が、民主主義的な手続きを以て国のトップに就いたことであります。これは中東各国に大きな影響力を与えるに違いありません。
   既述したところですが、旧政権の世俗派と、革命支持のイスラム主義者の対立構造はしばらくの間くすぶり続けるものと思われます。しかし、ムスリム氏は選挙中にも、自分はイスラム主義者の大統領を目指すのではなく、エジプトの大統領になるのだと発言していました。おそらく公約通り民主化と同時に国内融和に向けた政策を最優先し、新しいイスラム的民主主義の実現に向かって進んでいくことでしょう。
  アラブの春は、時ここに至りナイルの新しき豊饒の風を吹きおろし、全土に平和と秩序の駘蕩を促してくれることを祈って止みません。6月23日

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       消費税の値上げ、そしてマニフェスト

  時代とともに、世の中の流れとともに、人の気持ちも、見方も、考え方も変わってくるのが世の常であります。ましてや最近のように世の中が狭くなって、人の行き来も激しくなって、行き交う情報も数多く激しさを増してくると、昨日通用したことが今日は否定されているといったことも不思議ではありません。それほど目まぐるしい世の中に置かれて私たちは生活しているのが実情です。目を開けている間は、ちょっとした気の緩みも許されません。だからこそ、そうした時に不動の信念、ゆるぎない確信といったことが必要になってくるのでしょう。右顧左眄した生活では、先を見据えて目的貫徹の道筋を描くことはできなくなってしまいます。
  自由と民主主義の社会では、多数決によって国民の最大多数の最大公約数を求めて、これを実現していくことに主眼が置かれています。政党の掲げるマニフェストは、選挙を通じてこれを国民に訴え公約して、政権政党になった場合これを実現していく使命と責任があります。消費税の値上げは民主党のマニフェストになかったもので、野田首相は公約になかったことに対して、自分の政治生命をかけてこれを実現すると胸を張って国民に訴え続けてきました。だとしたら選挙の時に消費税の値上げをマニフェストとして掲げ、国民の審判を仰ぐのが政党政治としても大前提ではないかと思うのです。国民は、選挙の時に民主党は政権を担当した時に、どうゆう理由で消費税の値上げを何パーセント、いつから行うということをはっきりと国民にその信を問うべきでした。しかしそれをしないで多くの議員を当選させ、政権を担当するに至ったのです。
  いざ政権をとってみたら手の裏を返すように、与党民主党は反対政党の自民党が主張していた消費税の値上げを言い出して、何が何でも今国会で成立させるという行動に出て、公明党の賛同を得、大きく修正をしてこれを衆議院で可決させました。しかも反対政党の自、公、民合意の上で法案を作りました。これに与党の民主党の一部が反対して国会の採決の場で反対投票を投じて、民主党の票が割れる結果となりました。
  間隙をぬって躍り出たのが壊し屋の異名をとる小沢さんです。やっぱり、とうとう出てきました。小沢さんも70歳の年です。いつまで若いつもりでいたら、道を誤ることにもなりかねません。おそらくこれが最後の出番となるでしょう。政治生命をかけた野田さんと同様、小沢さんも離党に政治生命をかけて打って出ました。国民をないがしろにした政党政治での離合集散を演じて、コップの中の嵐で、ちょっとした権力闘争の茶番劇であります。消費税に反対票を投じた議員は70票台に乗せました。最後の決断に民主党を出た議員諸侯は衆議院で38名、参議院で12名、計50名が民主党を離党しました。これを以てまず小沢さんは新党を結成することでしょう。
  ところでマニフェストにもなっかた民主党の降ってわいたような消費税の値上げですが、何故そうなったかを検証してみる必要があります。そこで野田さんが採った論理の正当性を主張することもできるかも知れません。財政再建問題は、日本のみの事柄ではなくなりました。世界各国が等しく見舞われて今や国家存立の大問題となってきている事柄です。マニフェストの呪縛を受けていると、現実には硬直した政策に国も国民も翻弄されていってしまうことにもなりかねません。
  リーマンショック以後、景気立て直しに各国は連携して大型の財政出動を余儀なくされました。それによって民間経済は事業に活路を見出し、景気回復に道筋をつけることが出来ました。もちろん無駄を省き、経費節減を行い、身を削るような合理化を行って企業の再生に努力しました。新しい事業の展開も勇敢に試みました。創意工夫の発揮であります。ところが国は、財政の膨張を図ったまま、民間が骨身を削って行ってきたような努力を怠り、放漫財政の垂れ流しを怠惰に続けてきたままなのです。国の借金はそのままに残ってしまいました。税収をはるかに上回る国債の発行に頼るばかりの財政しか組めなくなって、国債残高は増えるままであります。状況が目まぐるしく変化しました。マニフェストを破ってまで取り組まなければいかなくなったのが現状でしょう。将来の破たんの影に怯えて、痛し痒しで決断した苦肉の策ともいえないこともありません。
  税と社会保障の一体化を叫んで漕ぎだした泥船ですが、少子高齢化の道を驀進中の社会保障の問題は先送りとなって、消費税率の値上げだけが優先して決められていく悪い手法が、またぞろ認められていくことになりました。仮に将来景気が回復して税収が歳出を上回っていくようなダイナミックな経済社会が構築されていくようなときには、消費税の値下げ乃至、廃止を行うような弾力性ある決定が、これからの社会において考えられてこなければなりません。昨日あって正しかったことが、今日消えてしまって否定されるような激しい世の中、世界に起きている現象です。マニフェストにそうした時代的認識の必要性も記述したらどうでしょうか。しかしあくまで譲ってはならない基本的な精神、理念、法律、規範、道徳律があります。それは日本国憲法に高々とうたわれています。
   大学時代の教養科目に大西邦敏教授の憲法がありました。比較憲法論を展開して、世界の国々の憲法の一般的趨勢を検証して、日本国憲法がどのような特殊性を持ち、どのような位置付にあるかを論究していくものでした。教授自身はそれを根拠に、むしろ改憲論に近い思想を主張したかったようであります。自民党政権下にあって、当時の憲法調査会の座長を務めたりしていましたから保守的傾向があったかもしれません。その憲法の講義で、外国の憲法を列挙して条文を暗記したまま述べていたくらいですから、日本国憲法ぐらいはすべて暗記する義務が学生諸君に課せられていました。若い時に頭にぶち込んだ事柄は、内容はともかくとして不思議と覚えているものであります。問題は暗記ではなくて内容の吟味にあります。日本国憲法の精神と理念こそ、時代を超えて、地域を越えてあまねく人民に共通した原理、原則を確立したものとして、昨今はますますその重要性を発揮してくるように思っています。   6月29日

2012年6月18日

社団法人 昭和経済会
理事長 佐々木誠吾


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