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vol7-07 滞米日記
4月28日から始まったゴールデン・ウイークを使って12日間、妻とニューヨークに発ち、前半の5日間をニューヨークで過ごし、後半の5日間を所用のためロサンジェルスで費やしました。「滞米日記」と銘打って昭和経済に載せることにしましたが、東海岸に位置し、世界経済の中心地であり、現代の人類の活動を通した文明と文化の発信基地とも言えるニューヨークは、正に興味津々で尽きることなく、西海岸に勢力を張るロサンジェルスも風光明媚に商業地、観光地として栄え話題性に富み、赴くままの私のレポートはどこまで、いつまで続くかわかりません。即興の和歌も五百首以上になりました。「滞米日記」と銘打って、その間の滞在記の、走りの一部を次にご紹介します。
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四月二十七日(金曜日)
朝、五時四十分起床。テレビ東京の明子のニューヨーク発ニュース・モーニング・サテライトの放映を見て、いちはやいニューヨーク株式相場の結果と、ニューヨーク発信の各種の経済指標の速報の詳細を得ることができました。経済人として、グローバル人として、その日の活動に備えて是非とも承知しておかなければならない知識であり、従って絶対に見逃すことの出来ない報道番組です。番組は朝が早い時間なので、早起きが身について健康的であります。
快晴のこの日も庭に出て、約十分間の自己流の体操のあと風呂に入って充分に身体を揉みほぐしました。このところ鶯が近くに来て、青葉若葉の日の光のなか、しきりに鳴いています。ここ、等々力、尾山台周辺は元もとから農家が多く、いまだに大きな母屋をかまえ、落ち着いた納屋を置き、広い庭を持つ家があります。のどかな畑も点在しています。植木畑もあります。従ってこの地区は以前から樹木が多く、自然に恵まれた土地柄といえます。わたくしの生まれ故郷は東京の下町の浅草です。しかも由緒ある猿若町です。江戸時代に芝居小屋として栄え、江戸歌舞伎の発祥の地でもあります。浅草三社祭りは氏子がこぞって祝い楽しむ伝統的行事ですが、町内には昔栄えた市村座、守田座、中村座の記念碑が立っております。向こう三軒両隣りといって、人情味のある町で、現在もこみこみと雑然としていて、騒々しい街の雰囲気ですが、その昔、浅草から母が楽しみに拙宅を訪ねてきたりすると、先ず、空気がおいしいと云うくらいでした。ありがたいことに、それ程に良い環境なのです。小さい頃の裕介も、明子も素晴らしい環境の下で、生きものにやさしく、おおらかに、すくすくと育っていきました。
かくしてわたくしも、裏庭の木々の若葉を見ながら、鼻下まで風呂につかり、すっかり野天湯につかった気分でいます。そこで、やおら髭を剃りシャワーをあびて出ますが、これが私の朝の日課です。仏壇の水差しの水を取り替えたあと念仏を唱え、暫くして外に出ました。妻が笑うのですが、時に十字架に祈ったりすることもあります。勿論、敬虔なクリスチャンの家内とは教会の日曜礼拝に行くことは欠かしたことがありません。聖書を読み、讃美歌を歌って祈りのときを過ごしてきます。惰性、怠惰に過ごすような日はありません。
この朝、私は庭畑の新菊を摘み、君島氏から貰った杵つきの餅五切れを添えて、垣根越しに向いの佐伯の奥さんに差し上げました。佐伯さんは清潔好きで、草花が大好きです。朝早くから近所の掃除に余念がありません。我が家では、庭に雑草が生えて繁らないように、この日に向けて早くから芝を刈り取り、庭畑を起こして準備してきました。家の中は前日に旅行前の片付けと整理を全て済ませているので、軽い食事をとったあとは、ゆっくりとした気分で家を出ることが出来ました。留守の間はご近所によろしくとお願いして、三井さんに専ら留守をお預けしていくことにしました。
七時五十分、タクシーにて東横線自由が丘駅へ。いつもは歩いて行く道のりです。大井町線経由で品川駅に行き、八時四十分発成田行エキスプレスに乗りました。 中略 成田空港で二度目の用を足し、心身共に爽快、快眠、快食、快便は健康、長寿の元。事業に成功し、巨万の富を得ても快食、快便、快眠のどれ一つを欠いても心身の健康を損なっていたでは、決して幸福な人とはいえません。先ずは健康でいることが一番です。当たり前なことですが、日々励行すべしであます。と言っているうちにも塚本氏から電話、日本精蝋が業績の上方修正でカイ気配となり、ストップ高の予定と。朗報に、旅は幸先のよい前兆です。この株は友人の関係で長くお付き合いして持ってきていますが、会社の内容が最近素晴らしくよくなってきました。長い間と申しましたが、株主として三十年以上になるでしょうか。今流とは云いませんが、愛するこの会社も急速に目覚めて、改革改善の上、経営理念が浸透してきているのでしょう。最近は、日本の上場企業の企業業績の好調で、中には史上最高の利益を計上するところも沢山出てきており、結構なことですが、その割には日本の株式市場は冴えないでいるのが実情です。
東京市場では1989年十二月に付けた日経ダウ平均株価、三万八千九百十五円をいまだに抜くことが出来ず、このグローバル化時代に大きく遅れをとっています。バブル期につけた値段とはいえ、今はまだ半分以下の水準にあります。市場そのもののどこかに無理があり、欠陥があり、魅力に欠ける面があるに違いありません。世界の株式が好調の中、日本だけがグレイゾーンから抜け出せず、一人、蚊帳の外に置かれていて、何とも情けない話ではありませんか。
元・産業再生機構の社長をされていた斉藤惇氏は、その時代的大役を果たして機構は潔く解散しました。元、斎藤社長は六月から東京証券取引所の理事長、即ち社長に就任されることが決まっています。証券取引所もグローバル化に乗って、世界の中の、果敢な競争社会に突入せざるを得なくなってきています。課題の多い世界ですが、斎藤氏は、これまでの豊かな経験に優れた力量、手腕を発揮して、これらに打ち勝っていく戦略をお考えのことと確信しています。私は、氏の経歴からして正に水を得た魚と形容してはばからないつもりです。広く日本経済の発展と、将来的展望は、斎藤氏の双肩にかかっているといっても過言ではありません。それは直ちに国際経済に影響を及ぼすものであり、日本経済の世界経済に果たす役割に繋がってくるものであります。そう考えてくると、日本の株式市場は、次に飛躍する膨大なエネルギーを温存している最中だと考えるべきです。先端技術に強く、省エネに強く、環境問題に付いては他の追随を許さず、国内の規制緩和も進み、企業の構造改革は特段に進んで、将来の業績の持続的向上に備えて、その潜在力は大きいのです。経済にこれ以上の特権はありません。斉藤氏は昭和経済五月号に、意義深い論文を掲載されておられます。企業経営者は改めて氏の経営理念、意志、観念を学び取るために熟読されることをお願いいたします。 中略。 続く
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ざっとこんな具合で語りながら、世界経済の中心地、ニューヨークに飛び込んでまいります。短期間の滞在ですが、話題は時代性を持ち、思いつくままに多種多面に亘っておりますので、よろしくお願いいたします。最近、機を同じくするように、ニューヨークを語る報道が、頻繁にテレビや新聞記事に多く見かけるようになりました。中には特集を組んでいるものもあります。「ニューヨーク物語」とでもいいましょうか、経済、政治、文化、芸術と、その規模は大きく、絶大なものがあります。
ところで尚、日本の「うた」を、大和(やまと)言葉であえて「和歌」と申しましたが、古来、万葉の時代から続く、今様の短歌ですが、私は同人誌「淵」に毎号載せておりますので、お読みになってください。同誌は早稲田大学名誉教授、故、植田重雄先生が創刊したものです。歌人、窪田空穂の流れを継いでいます。同誌の発刊は現在、百六七号に及んでおります。私はそこでも自由奔放に和歌を詠んでおります。
又、古い伝統に育まれた昭経俳壇の選者には、斯界で畏敬する俳人の遠藤英徳先生にご指導いただいておりますが、俳句も然りですが、時間に追われる多忙な企業経営者たちが、可能な限り身近に日本文学に接しつつ生活することは、それ自体誠に意義のあることと思います。皆さんも未だご興味のない方が居られましたら、是非試みて広げてみられては如何でしょうか。
平成19年6月13日
社団法人 昭和経済会
理事長