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社団法人昭和経済会

理事長室より
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理事長室より

vol.1.8-02 ふるさとの正月

  正月のふるさと       
一月二十六日、日曜日正后から、浅草富士小学校の五年二組当時のクラス会が、地元の浅草仲見世の老舗「ぱいち」でありました。当日には、担任の長浜テル先生に女子六人、男子四人計十一人が集まりました。毎年のことで、出席人数が少なくなってゆくように思うのは止むを得ないことでしょう。むつまじく、和式の洋風レストランの二階に席をとりました。この日、私は玉川神の教会の日曜礼拝に出席していましたが、途中から失礼しています。
恩師の長浜先生は八十三歳になりましたが、生涯独身を通してきています。終戦後の貧しい生活が続くなかを、教育の現場に携わってきました。当時は、国も家庭も、そして学び舎(や)も、今では考えられないほどの貧しい状況でしたが、不平を云うわけでもなく、不満を述べるでもなく、皆な楽しく勉学に励んでいたのが不思議なくらいであります。人々の心には、もの不足のなかで味わう、ささやかな満足した生活意識と、未来につなぐ勤労意欲がありました。
私は三十歳で所帯を持ち、独立して故郷の浅草猿若町を離れましたが、地元には、代々商売を引き継いでいる友だちがいて、小学校のクラス会は、こうした人たちが世話役になって毎年呼びかけてくれるので感謝しています。お互いに再会を喜び合い、昔のこと、今のことなど、とりとめもなく語り合ってきます。このクラス会では「青空」という小冊子も出していて、こうした会の模様や、同輩から送られてきた便りなどを載せて、クラス会のあったあとに送ってきてくれますが、当日も「各自、何かコメントを」という要望で、皆に一枚の便箋が渡されたので、私は酔狂に、左記の和歌を書いて幹事に渡してきました。その時の和歌をそのまま載せた方が、情景と、私の思いが簡単にお分りになると思って、ここに載せた次第であります。
      詠
浅草に生きて勤めを果たす友いて学び舎(や)の人と会へしも
畏敬する長浜先生に相まみへよわひ八十三(やそみ)に若きおもざし
浅草の「ぱいち」の店に師をまねき睦(むつ)き席にて語りあへしは
浅草に内山、石井、平林、甲斐(かひ)ある友らおりしまほらま
あさくさのふるさとに立ち思ひづることさまざまにありてゆかしき
ふるさとの猿若まちの隅に建つ江戸の芝居の小屋のあとの碑
待乳(まつち)やま聖天さまの丘にたちかすむ隅田の川をながむる
せみ、トンボ、蝶を追ひゆくはらからと幼きころのふるさとの日々
仲見世をゆく先にみる観音堂うやうやしくもそびへたつなり
仲見世をすぎて宝蔵門をくぐりゆきみやちにたかき五重の塔かな
きさかたの色まちをすぎ黒べいに沿へば昔の女(ひと)のうかびく
ててははも余もはらからも遊びすぐ観音堂の広きみやちに
正月の空に群(む)れとぶ鳩よりもあかねに高き五重のとふかな
先生が思ひをこめてしとやかに「別れの朝」をつやめき歌ふ
あさくさの雷おこしと人形焼ふくろにつめて孫に買ふて来
言問の橋をわたればとろとろと燃へておちゆくふるさとの陽(ひ)よ
この先の友の弥栄(やさか)を祈りつつ木槍のうたに締めて別れぬ
おみやげに塩野の和菓子いただきて浅草の灯の胸に燃へしむ
正月二十七日 浅草にて
 

平成20年2月20日

社団法人 昭和経済会
理事長 佐々木誠吾


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